mikio-kブログ

craft beautiful experiences.

AirBnBデザインの変化

私は大学院時代、ユーザビリティ評価が専門でした。そのときお世話になった先生に言われたのが、悪いデザインのはすぐに見つかるが、良いデザインを見つけるのはとても難しいと言うこと。良いデザインと言うのは当たり前に世の中に存在しているせいで、きちんと注意してみないと気が付かないんですよね。それ以来、ユーザビリティ、もっと言えばユーザエクスペリエンスなども含めて、サービスやプロダクトを使用する際には良いところや、工夫したんだろうなぁという点を意識して探すようにしています。

とはいえ、世の中のアプリやサービスを使う時に、それを作ったデザイナの人たちが何を考えたのか、と言う点 に思いを馳せるのは非常に楽しい。デザイナ達は通常、自分たちの成果物に対して細心の注意を払っています。もちろん、デザイナによってどこにフォーカスするかというのはそれぞれあると思うのだけれど、限られた時間、予算、ステークホルダーからの要望など、様々な制約の中で少しでも良いものを作りたいと言う思いは万国共通です。

目の前にあるサービスやアプリのUIやUX、ビジネスモデルを見ながらアレコレ考えるのももちろん楽しいです。そして、私がたまにやっているのはインターネットアーカイブWebサービスの過去ページを眺めたりすることです。

例えば私が旅行をする際にお世話になる事の多いAirBnBAirBnBって、あまり意識している人は居ないかもしれませんが、結構大幅に方向性を変えながら成長してきたサービスなんですよね。

www.airbnb.com

そこで、本エントリでは、AirBnBのトップページを追いかけながら、私の思うところを勝手に書いてみたいと思います。あくまでも私が好き勝手書いているだけなので、正解かどうかは知りません。また、本記事で引用する画像はすべてインターネットアーカイブによってスナップショットが取られたAirBnB社のものです。 

2008年のAirBnB(Airbedandbreakfast.com):イベント時の宿泊先検索サービス

AirBnBの場合、www.airbnb.comでの最初のスナップショットは2009年の2月。ですが実は彼らはairbnb.comと言うドメインを取得する前に、Airbedandbreakfast.comと言うサイトでサービスの運営をしていました。Airbedandbreakfast.comで検索すると一番古いものは2007年ですが、サービスとしてロンチしたのは2008年3月のものかなと思います。下記にスクリーンショットで引用します。

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https://web.archive.org/web/20080306054701/http://www.airbedandbreakfast.com:80/

初期のAirBnBはイベントなどでホテルが飽和してしまい予約出来ないときのためのサービスでした。サイトのトップページを見ても、あくまでもイベント参加者のためのサービスで、一般的な旅行者をターゲットにしていたようには見受けられません。そしてトップページにベッドのイラストと食事のイラストが大きく描かれており、サイトの目的を伝達しようとしています。また、検索システムがあるものの、あくまでもイベント名から検索するようなシステムになっています。

2009年のAirbnb:新しい形の旅行をするためのサービス

2009年3月になると、彼らはAirbnb.comのドメインを取得し、サービスのリニューアルがなされます。左上のロゴの横にある文字は「A new way to trabel」とあり、イベント参加者というよりも、旅行者全般をターゲットにし、かつホテルに宿泊するのとは異なる楽しみ方があるよとアピールしているように感じられます。また、検索も場所、日付から検索出来るようになっております。

トップページで目を引くのはやはり、宿泊先物件の大きな写真と、そこに添えられるホストの写真でしょうか。これによってユーザがいちいち検索しなくても、どのような物件がリスティングされているかを提示することが出来ています。また、部屋の写真だけでなくホストの写真を表示しているところも、通常のホテル予約サイトとは異なるんだという点を前に出していますね。

ただ、この段階で興味深いのは、あくまでもホテルの代替手段であると言うポジションを持っているところかと思います。これはワシントンDCなら一泊10UDから、パリなら20ドルから、サンフランシスコなら29ドルから宿泊出来ますよとアピールしている点から見受けられます。

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https://web.archive.org/web/20090305093538/http://www.airbnb.com/

 

2010年のAirBnB:現地人とのふれあいを実現するためのサービス

2010年になっても、トップページのレイアウトに大きな変化は見られません。しかしながらロゴの横のキャッチフレーズが「Travel like a human」になっています。これの意図するところは不明ですが、現地人とのコミュニケーションをもっと楽しもう、あたりなのかなと推測できます。

例えば、検索フォーム下部に4つ並んだリンクの中にはStay with Alumniと言う項目があり、おそらく自分の出身大学の卒業生の家に泊まってみてはいかがでしょうという提案なのかなと思います。その隣にはニューヨーク・タイムズの記事へのリンクが置かれています。リンク先はこの記事です。リンク先を読んでみるとAirbnbのサービス内容が容易に理解出来ますし、このサービスを使ってみたいと思わせる内容になっています。

彼らがこの記事をここに置いた意図もなんとなく理解出来ます。

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https://web.archive.org/web/20100620172729/http://www.airbnb.com:80/

 

2011年のAirBnB:ユーザの裾野を広げようとする

 2011年頃のAirBnBで 注目すべきは検索窓の下に並んだ4つのリンクです。アプリのPRや、素敵な物件の紹介、AirBnBに関連した動画集、AirBnBの使い方の説明と言う新コンテンツが登場しそこへの誘導が図られています。

この重要なスペースをそれらのために取るということから想像すると、この時期、ユーザ数が増えたと同時に、一般ユーザにもわかりやすくAirBnBのシステムを説明する必要性が高まったと考えられそうです。また、システムについて説明すると同時に、Airbnbの魅力についてユーザとコミュニケーションを取る必要にも駆られ、その結果登場したのAirBnB TVなのではないかと考えられます。

 

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https://web.archive.org/web/20110321010753/http://www.airbnb.com:80/ 

 

2012年前半のAirBnB:収益性と安全性をアピール

2011年後半からその兆候があったのですが、2012年のAirBnBの注目すべきポイントは、安全性のアピールと、物件オーナーに対する収益性アピールです。

まず安全性について、画面上部に書かれているのは24時間365時間のサポートがありますよという点。それから画面株に相変わらず並んだ4つのリンクですが、そのうち2つが安全に関する内容となっています。

たしかに、一般のユーザからしてみれば知らない人の家に泊まるのは不安なものですし、オーナーからしたって知らない人が家に泊まりに来るなんて不安でいっぱいですよね。これらを解決するためにこのようなコンテンツをここに配置しているのでしょう。

そして収益性に関するアピールですが、画面下部に並んだ4つのリンク、驚くべきことに、左から1つ目と、3つ目は飛び先が同じなのです。内容はどちらも、あなたが所有している物件を使って収益を生み出しませんか?と言うもの。

当たり前の話ではありますが、AirBnBが成長するためには、トランザクションを増やす必要があって、そのためには豊富な物件リスティングが絶対に必要です。そのため、新規リスティングを確保するために力を入れていたんだろうなと想像出来ます。

f:id:mikio-k:20170920003637p:plainhttps://web.archive.org/web/20120425122816/http://www.airbnb.com/

 

2012年後半のAirBnB:写真の力を利用

これまで約4年間、ほぼ変わらぬレイアウトを貫いてきたAirBnBですが2012年後半にAirbnbは大きなデザインの変更を行います。物件写真を大きくトップページに表示する方式ですね。

ここで個人的に注目したいポイントは宿泊先の検索サイトであるにも関わらず、日付を指定出来ない仕組みになっている点です。地名からしか検索することが出来ません。この方式であれば、空き状況に関わらず物件を表示させることが出来るので利用者はその土地の様々な物件を検索結果として見ることが出来ますが、さっさと予約したいユーザ的にはどうなんでしょうね。なお、さすがに不評だったのか、この1ヶ月後には、トップページから日付や宿泊人数による検索が出来るように修正されています。

ちなみに、このスクリーンショットは1024*768で取得しているので表示されていませんが、下方向にスクロールすることができて、スクロールすると2012年前半と同様の4つのリンクが出現します。

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https://web.archive.org/web/20120728194330/https://www.airbnb.com/

2013年のAirBnB:旅先での体験も包括的に?

2013年になるとAirBnBは「Neighborhood Guides」と称して各都市のスポット紹介を始めます。トリップアドバイザ的なコンテンツを狙ったのかなと思います。

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https://web.archive.org/web/20130424065140/https://www.airbnb.com/

2014年のAirBnB:体験をの価値をもっと打ち出す

2014年には大幅なリニューアルがありました。まず目につくポイントは「Welcome Home」でしょうか。ホテルでは得られない体験を提供するというAirbnbのコンセプトを表現しているんだろうなと言うことがわかります。

そして、トップの画像が動画になっています。そしてこれまでは宿泊先の画像をトップページに大きく表示して「こんなに魅力的な宿泊先に泊まれますよ!」という点をアピールしていたのですが「旅先で、こんな感じの体験はどうですか?」というアピールに変わっています。

なお、このリニューアルに合わせて、AirBnBは新しいロゴを導入しています。この画面をスクロールするとその説明動画がでてきます。

また、このリニューアルが行われてからしばらくたつとBelong Anywareのコピーが登場します。

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https://web.archive.org/web/20140924041238/https://www.airbnb.com/

2015年のAirBnB:Belong Anywhere

2015年になっても基本的には大きく変わりません。あえて言うならWelcome HomeがBelong Anywhereになったぐらいでしょうか。

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https://web.archive.org/web/20150828181453/https://www.airbnb.com/

 

2016年前半のAirBnB:Live There

大きく変わったのはコピーでしょうか。Weclome HomeからLive thereに変わっています。日本語で言うと、暮らすように旅しようが相当するのかもしれません。

なお、検索フォームの下にOur Communityと言う項目が見えますが、これは数年前からあったものです。ただし、それを画面上部に近い目立つところに持ってきて、コミュニティの繋がりをサービスの前面に出そうとしているのかなと言う雰囲気を感じます。

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https://web.archive.org/web/20160602025743/https://www.airbnb.com/

2016年後半のAirBnB:体験のリスティング

ここからAirBnBは急展開を迎えます。これまでの宿泊を前面に打ち出したサービスから、体験をもっと重視する方向に変化していくわけです。例えば、寿司職人の体験だったり、とある施設の舞台裏への案内などがよくリストに上がっていますね。このトップページは、宿泊に関する検索ももちろん出来るようになっているのですが、こうした体験もAirBnBで予約出来るんだよという事を伝えようとしているのでしょう。

ちなみに、個人的にすごいと思うのは、この画面のどこを探してもAirBnBと言う文字が無いのです。もちろん左上にロゴがあるのでこれがAirBnBのサイトだと分かる人にはわかるのですが、思い切った判断だなと感じます。

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https://web.archive.org/web/20161124081410/https://www.airbnb.com/

2017年のAirBnB:とにかくシンプルに

そして現在に至ります。最後のだけはインターネットアーカイブではなく現在のairbnb.comのサイトからスクリーンショットを引用します。

画面構成は非常にシンプルですが、色々な情報が詰め込まれているのがわかります。個人的に面白いなと思うのは、これ検索ボタンがないんですよね。画面上部に検索条件を指定するボックスがあって、この値を変更すると、下部に表示される検索結果が自動読込される仕組みになっています。

また、AirBnBの歴史を振り返って見て一番大きな変化は、検索結果としてはじめに表示されるものが「体験」の項目なんです。宿泊先を探すためにはタブを1クリックしなければ行けないと言う、AirBnB的には非常にチャレンジングなデザインの変更ではないかと思いました。

とは言えこれは、AirBnBで宿泊先を探せると言う事を、多くの人が常識として認知しているからこそ出来るんですよね。仮に知名度の低いサイトが同様の事をしたとしたら「あれ?宿泊の取扱を辞めたのかな?」なんて思う訪問者がいたって何の不思議もありません。

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https://www.airbnb.com/

おわりに

以上、2008年から2017年までのAirBnBのサイトのスクリーンショットとともに追いかけて見ましたが、リリース当初から現在に至るまでのサービスの方向性の変化や、彼らが何を重視していたか、何を考えていたかがWebサイトに現れており非常に興味深く感じます。

今回はAirBnBのサイトを例に取り上げましたが、他のWebサービスでも同様に時間とともにメッセージの伝え方などが変化している場合が多くあり、サービスや、それを取り巻く環境の変化などと合わせながら読み解くと学べることが多いのではないかと思いますし、自社のサービスに対しても適用出来るようなテクニックを見るけることが出来るのではないかと思います。