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「仕事ではじめる機械学習」を読んで

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著者のひとりであるところてん (@tokoroten)氏から「仕事ではじめる機械学習」を献本頂いたのでレビューを書いてみようと思う。

仕事ではじめる機械学習

仕事ではじめる機械学習

本の中身の話をする前に私の機械学習に関する知識経験がどの程度か、簡単に説明しておきます。

私は学生時代、開発中のソフトウェアに存在するバグや、Webサイトの中に含まれる使いにくい部分を機械学習技術を使用して予測/特定する研究に従事していました。卒業後はとあるメーカーの研究所にて、機械学習アルゴリズムを使ったロボット制御に取り組んでいました。と書くといかにも凄いことをしていたようですが、実際にはありもののライブラリを使って学習データから辞書を作り、システムに組み込んでいただけ。自分で本や論文、特許などを読んだり、社内で進められていた多くの機械学習関連プロジェクトを間近で見てディスカッションに参加したり、CMUの金出先生や東工大の杉山先生の講義に何度か参加させて頂くなどはしましたが、機械学習アルゴリズムそのものを作ったことは無いし、既存のアルゴリズムのは内容を詳細に説明出来るわけではありません。ただし、「機械学習アルゴリズムを使って何かを作る」と言う点から言うと、それなりに知見があるのではないかと思っています。

いきなり技術技術した話から書き始めてしまったものの、このブログはテクノロジーに関するブログではないし、主要な読者としてエンジニアを想定していません。もちろんエンジニアの人に読むなって言うつもりはないけれど、デザインを仕事にしている人や、デザイン分野に興味がある人をターゲットと考えながら私はこのブログを書いています。そういった文脈の中で、私がこのブログでこの本を取り上げる理由について説明する必要があるかと思います。

今更私が言うことでもないと思うのだけれども、新しいものを生み出すと言う際には、テクノロジーとデザインのそれぞれについて理解していることが重要です。なぜなら、テクノロジについて正しい理解をしていない事が発想にリミットをかけたり、またはその逆で、実現不可能なコンセプトを生み出してしまうことにもなりかねません。

特に、昨今では機械学習などAI関連技術がユーザ体験に少なくない影響を与えています。テクノロジによって新しいデザインが可能になる事もあれば、デザインによって新しいテクノロジーが生まれる事もありテクノロジーとデザインはお互いに歩み寄るとともにお互いに影響を与えあっています。そういった状況においてデザイナが機械学習技術を知るためにも本書が有用だと感じました。

もちろんデザイナからすると、この本の説明は少々難解で理解しにくい部分もあると思います。例えば、デザイナがSVMとロジスティック回帰の違いを理解する必要があるかと言えば悩ましいところです。もちろんSVMが結果が0、1の2-class分類で、ロジスティック回帰の場合は目的が2class分類だったとしても、その結果のたしからしさが確率が得られるなど、細かい面で様々な違いはあるものの、実際にはライブラリを使う事が多くなることでしょうからSVMがどういった仕組みで動いているかを理解する必要も無いのかも知れません。個人的に、そのあたりは読み飛ばしても大きな支障は無いのではないかと思います。だけれども、KPIを設定し、プロトタイピングを通してプロダクトをブラッシュアップして行く立場からすると、アルゴリズムをどう評価し、機械学習をどのようにシステムに組み込み、データをどう集め、効果を検証するかと言う一連の流れは少なくとも概要程度は抑えておくべきでしょう。

 

さて、本書を読んでいて個人的に面白いなと思ったのは冒頭に「機械学習を本当に使うべきなのかを考えなさい」と述べられているところです。実際に機械学習を使っている人や、機械学習に関して学んだことのある人からすれば当たり前のことではあるのだけれど、世の中には機械学習を使わなくても解決出来る事もあるし、機械学習を使ったとしても解決出来ない事があります。

本屋に行けば機械学習やらディープラーニングやらというキーワードがついた本が平積みにされている今日、これらの技術がまるで魔法であるかのように思われがちであるものですが、これらは決してそういうものではないし、多分思ったよりも使いみちの無くて、使いみちがあったとしても実際にはそれなりに手間のかかるものです。それをまず知識として知った上で、解決したい課題に対して機械学習を使う事が最適なのか、もしくは現時点で最適であるとまで言えなかったとしても最適である可能性が高いのかということは、機械学習プロジェクトを始める前に必ず立ち止まって考えなければなりません。

なぜこういう話を書いたかというと、私自身、機械学習技術をどのように使うかについて色々と考えて居た時期があったからです。新卒で就職した会社で私はいわゆる中央研究所の人工知能関連部署に配属になりました。最初の数年こそはアルゴリズムの開発などに携わって居たこともあるのですが、途中からは企画側にまわり機械学習技術を使ってどんなビジネスが出来るか?どんな製品やサービスが作れるか?についてひたすら考えていました。

私の場合だと機械学習技術だったわけですが、機械学習に限らず特定の技術を何に使えば良いかを考える時って大きくわけて2つのアプローチがあるんですよね。ひとつは機械学習技術を何に使う事が出来るだろうか?っていう技術の使いみちから考えるアプローチ。世の中にすでにあるサービスやプロダクトをヒントにする事もあるし、ICCVやCVPR(コンピュータビジョン分野のトップカンファレンス)などに出てくるような論文をヒントにする事もあります。

もうひとつは課題や市場から出発するアプローチ。世の中には◯◯という課題がある。これを機械学習を使って解決できないか?もしくは、夜の中には◯◯という市場がある。機械学習技術を活用してこの市場に参入できないか?という考え方ですね。例えば今後加速するであろう少子高齢化社会を成立させるためには介護を効率化したり、予防医療に力を入れていくわけがあるですが、これらに対して機械学習技術を使ったビジネスが出来ないだろうか?と考えたりするわけです。

どちらの場合でも、出てきたアイディアは下記2点を満たすか考えなければなりません。

  1. その課題は、機械学習で解決するのが最適なのか。他の方法でもっと簡単に解決できないのか?
  2. その課題は、解決する価値がある課題なのか。その課題で困っている人は実在し、解決されることに対して価値を感じるのか。

また、場合によっては下記についても検討を加える必要があるでしょう。

  1. 機械学習の寄与度はどの程度なのか。
  2. どの程度、課題に特化したカスタマイズが必要なのか。
  3. 自社の既存ビジネス、または製品・サービスとの相性はどうか。

これらの基準からアイディアをフィルタリングしていくと、機会学習が生きるケースって実はそこまでないんですよね。おそらく、この本のターゲットは、既に課題が明確で、そこに対して機械学習を適用することを考えていると思うので、実際に考えるべきは1の「その課題は、機械学習で解決するのが最適なのか。他の方法でもっと簡単に解決できないのか?」になるかと思います。 

フィクションではありますが具体的な例をあげて説明しましょう。今ではカメラに顔認識機能がついているのは当たり前になりましたが、ほんの15年ぐらい前までは顔認識機能がカメラについている事って無かったかと思いますが、この機能がカメラに搭載されるにはきっと下記のような経緯があったはずです。

とあるカメラメーカーでは、ユーザがカメラを使う際に、ユーザの満足度を向上させるためには、ユーザがシャッターを押したうち明らかな失敗写真を減らすかが必要だと考えていました。失敗写真の種類には色々あるわけですが、手ブレもありますし、ピンボケ、構図がおかしい、タイミングがずれたなど様々あり、それぞれの要因に対して個別に対策していく必要があるわけです。これらの課題のうちピンボケに関しては、ユーザが正しくフォーカスを設定出来ていない、オートフォーカスのフォーカス先が被写体に正しく合っていないなどの原因があるわけです。ではなんとかしてスルー画(ライブビューの画面)の中から主被写体となりえる顔を検出して、そこにフォーカスを合わせられないか?と考えるのは自然な話ですよね。

さて、この課題をどうやって解決しようかと考えた時に機械学習を使うのは理にかなっているでしょうか?他にはどのような解決方法があるでしょうか?例えばUI上の工夫で、ユーザが簡単に人の顔にピントを合わせられる仕組みを提供すると言うのも解決方法かもしれませんが、ユーザの利便性を考えると顔の自動検出に劣ります。機械学習を使わずに顔を検出する方法、例えばネットワーク越しに画像を何処かに送り、クラウドソーシングのような仕組みでやることも可能かもしれませんが、コストもかかるしタイムラグだって結構ありそうです。

以上のように考えると、機械学習を使う事が妥当だと言うことができます。このように、課題が明確か?その課題を解決することに価値があるか?その課題を解決するためには機械学習を使用する事が本当に最適か?と言うことを考えることは実際のプロジェクトに着手する前に十分に検討すべき項目であることに異論は少ないかと思います。

ここに関しては私自身も色々と思い出があるので面白い話も色々とあるのですが、あまりこの部分について書きすぎると何のレビューなのかわからなくなってしまうので、先に進みましょう。

次の章では、機械学習で出来る事や、各アルゴリズムの説明、アルゴリズムの評価方法、システムへの組み込み方、データの集め方などについて述べられたあと、映画の推薦システム開発や、Kickstarterプロジェクトの分析、マーケティングへの機械学習活用の例が紹介されています。

世の中にあふれる本などをめくればアルゴリズムの説明などに関しては本書より詳しい本はいくらでもありますが、実際のプロジェクトをどのように進めていくか、プロジェクト担当者の思考をトレースしつつ学べるちょうどよいリソースってネット上にも紙の本にもほとんど無いはずです。

私の場合は大学院で機械学習を使った研究をしていた際に、指導教官や先輩から手厚く指導頂いたおかげで、機械学習のプロジェクトはこのように進めれば良いというのを手を動かしながら理解する事ができましたが、これってアルゴリズムの勉強だけしていても身につけることは難しい知識、スキルだと思います。

そう考えるとこの本は機械学習の概要からアルゴリズムの基礎、そして実際のプロジェクトの進め方が一通りまとまっており、タイトルの通りではあるものの仕事で機械学習に取り組もうと考えている人にはお薦めしたい一冊です。

仕事ではじめる機械学習

仕事ではじめる機械学習

 

CIIDの卒展に行ってきた

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1年ぶりにコペンハーゲンに行ってきました。目的は私の母校CIIDの卒業展示です。CIIDの卒展は普段学生達が授業を受けたり、制作に取り組んでいるスタジオで毎年12月に行われています。会場の雰囲気はこんな感じ。結構多くの人でごった返しています。

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会場に来ているのは、学生の友人、家族、OB/OG、デザイン関係者、デザイナを採用したいと思っている企業のリクルータなど様々ですが、私が参加した理由のひとつは、私の同級生に会うためでもありました。クラス25人のうち、流石に全員とまでは行かないものの半数近くの同期が集まり久しぶり!最近何してるの?などと現役生の卒業展示を見ながらお酒を飲んだりしておりました。

デンマークに来たのは同級生に会うためと言うのももちろん大きな理由なのですが、デンマークでデザインを学ぶ日本人に会うためというのもひとつありました。例えば、CIID IDP2017の神谷さん。

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それから日本のデザインに絶望したブログを読んで個人的に注目していた平野さん。

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さらに、たまたまではあるのですが、カオスパイロットに留学中の方にもお会いして、色々とお話をする事ができました。その後、平野さんが下記のような事をつぶやかれていて、もちろん主観ではあるのだけれども、それぞれの学校ごとに違いがあって面白いです。

CBS(Copenhagen Bussiness School)に関しては私もそこまで詳しいわけではないのですが、CIID(Copenhagen Institute of Interaction Design)も、DSKD(Design School Kolding)、カオスパイロットもそれぞれデザインを学ぶ事ができる大学です。

だけど、それぞれアプローチが結構違うんですよね。例えばCIIDは学生に対し、彼らが何らかの分野でそれなりの専門家であることを要求します。グラフィックデザインなど、いわゆる伝統的なデザインの人もいますし、エンジニアリング出身の人も居れば、マーケティング経理などビジネス面出身の人もいます。既にそういった専門性を持った人に対してデザインのスキル・知識を教える事によって、彼らが卒業後、もともとの専門性とデザインの領域におけるハイブリッドな人材として、世の中に新しい価値を提供することを期待しているわけですね。

その一方でDSKDやカオスパイロットでは、入学生にそこまでの専門性を求めない印象を受けました。私自身話を聞いただけなので実際そこまで詳しいわけではないのですが、DSKDではテキスタイルだったり、ゴールドスミスだったりと様々な分野があるのですが、それらの専門技術を磨くと同時に、それらの技術を礎に社会に対してより大きな価値を提供していくアプローチであるように感じています。カオスパイロットに関しても同様で、いかに斬新な発想を得てそれをプロジェクトとしてまわしていくかにフォーカスしているのかな。そのため前者は表現が好きじゃないとつらい、後者はやりたいこと持ってないとつらいと言う表現になるのも理解できます。

ちなみにCIIDについては私は下記のように補足したのですが、ニュアンスとしては似たようなものでしょう。

これは最近友人と話をしていたことでもあるのですが、そもそもインタラクションデザイナーやサービスデザイナーをゼロから育成するのってメチャクチャ大変なんですよね。であれば、CIIDだけでなく、イリノイ工科大や、スタンフォードd.schoolやデザインインパクト、RCAIDEなど、何らかの専門性を持った人にデザインを学んでもらった方が良いだろうというのは、至極当然な発想であり自然な流れだと捉える事ができます。

と思ったら最近似たような事が書いてあるブログ記事を読みました。この流れは今後もしばらく変わることは無いだろうなと思いますし、そうなった場合、インテンシブで、イテレーティブな仮説検証としてのプロトタイピング手法をいかに組織に埋め込んでいくかがポイントになってくるのではないかと思います。

lab.lsd.design

 

デザインって結局なんなの?に対する回答(デザインの4分類)

「デザインってなんなんですか?」

私がデザインの話をしていると、少なくとも月に一回、多ければ毎週のようにこの類の質問を受けます。たしかに、多くの日本人がデザインと言う単語からイメージするものは、ポスターやチラシを作るような一般的にグラフィックデザインと呼ばれるようなデザインであったり、iPhoneやあるいは家電製品等を形作るようなインダストリアルデザインだったりすることが多いように思います。だけど私はグラフィックデザインやインダストリアルデザイン分野でご飯を食べられるような知識やスキル、実績があるわけではない。じゃぁ一体こいつはなんなんだ。デザインとは、デザイナとはなんだ?って事になるのもわからなくはありません。

CIIDがいわゆるデザインスクールであり、デザインスクールがデザイナを育てていることに異論を唱える人はほとんど居ないでしょうから、そういう意味では私はデザイナなのでしょうが、少なくともCIIDが標榜するインタラクションデザイン、あるいはサービスデザインがデザイン業界の中でどのようなポジションに置かれるかを説明する必要があるとは感じて居ます。

これに関しては下記のブログでも書きましたし、自分なりになんとか解釈して説明しようとするのですが、いまいちしっくり来ていないのが事実でもありました。

ddcph.hatenablog.com

ところが最近、CIID留学中に取ったノートやらを見返しているとRichard Buchanan氏によって2001年に書かれたDesign Research and the New Learningという論文への言及がありました。この論文はインタラクションデザインの授業の冒頭で紹介されたものであり、当時は授業についていくのが精一杯だったので斜め読みしかしていなかったのですが、真面目にちゃんと読んでみるとなかなかに面白い。下記にGoogle Scholarのリンクを貼っておくので、興味のある方は読んでみてください。

Design Research and the New Learning

この論文自体はデザイン研究に関する議論で始まっています。研究分野としてのデザインが置かれる現状と課題、そしてデザイン教育に課題なども言及されており、これはこれで非常に興味深い内容ですが本エントリの趣旨から脱線してしまいますので論文を読み進めインタラクションデザインの定義について話を戻しましょう。

論文の中ではデザインの定義を試みた歴史についていくつかの紹介があります。例えば、Paul Rand氏は“Design is the creative principle of all art”と述べていますし、Ralph Caplan氏は“making things right”とデザインを定義しているようです。

この論文の著者であるRichard Buchanan氏は“Design is the human power of conceiving, planning, and making products that serve human beings in the accomplishment of their individual and collective purposes"と述べています。この定義、とても興味深い。たとえばデザインはhuman power(人間の能力)であると述べている点や、デザインのプロセスにはconceiving(思いつく), planning(企画する), and making(作る)があると述べている点など。

おそらく、デザイン教育に対する著者の提案との繋がりもあるのだと思うのですが、こう定義する事で教育カリキュラムを設計しやすくなるのは事実でしょう。Paul Rand氏やRalph Caplan氏の定義は非常に印象深いものであるものの、ではデザイナをどうやって育てれば良いのかと言う具体的なところを議論することができません。実際、CIIDではデザイナの役割をOpportunity finding、Storytelling、Executingと定義していますしこれは現在わりと一般的な考え方なのかもしれません。

では、この定義において、プロダクトとは何を指すのでしょうか。氏は、デザインを4つに分類することを提案しています。

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最初の1つ目は グラフィックデザインです。グラフィックデザインで扱うデザイン対象物は従来、印刷物が中心でしたが、現在では映像、GUIなど、グラフィックデザインと呼ばれる範囲が増えてきており、それに伴いこの分野をコミュニケーションデザインと呼ぶ事もあります。これはグラフィックデザインの本質が、言葉や画像などの情報を人々にいかにして伝達するかにフォーカスしているからであり、映像やGUIなどカバー範囲が広がっても、情報を人々に伝えるためのデザインという本質部分は同一であると考えることが出来るからでしょう。

2つ目はインダストリアルデザインです。インダストリアルデザインは物理的なモノのデザインです。大量生産の消費財のデザインをプロダクトデザインと呼ぶこともありますが大きな違いはありません。グラフィックデザインとインダストリアルデザインの違いは、デザインの対象がビジュアルシンボルか物理的なモノかであるとも言えます。なお、ここで重要なポイントとして、インダストリアルデザインとして何か物理的な物を作り上げる際には、グラフィックデザインが必要になってくる点です。例えばiPhoneを想像して頂くと良いかと思うのですが、ハードウェアとしての造形の他に、iOSというソフトウェアを作り上げる必要があり、そこにはグラフィックデザインの知識、スキル等が要求されます。

さて、ここまでは比較的従来の「デザイン」という単語が持つイメージから大きな乖離が無いと思いますが、3つ目のインタラクションデザインと、4つ目の環境デザインについてはデザインに興味の無い多くの人にとって馴染みの少ないものであろうと思います。

インタラクションデザインは製品を通して人々の行動や経験をデザインします。インタラクションデザインにおける成果物は、ビジュアルシンボルの場合もあれば、物理的なモノの場合もあるでしょうし、場合によっては人と人とのコミュニケーションの取り決めかも知れません。 

実際のものづくりにおいて、ビジュアルシンボルや物理的なモノを作ることが重要であることは疑いようがありませんが、それが人々の行動に何らかの影響を与え、人々の経験の一部とならなければ、作り出したプロダクトに価値はありません。

「誰もいない森の中で木が倒れたら音がするか」という哲学的な問いがあります。空気の振動が発生するのは確実として、それが耳に入らなければ音ではない。人々に影響を与えない制作物は上記問いと似たようなもので、極端な事を言ってしまえばプロダクトでは無いのかもしれません。したがって、デザイナは自分たちが作り出したものが人々のいかなる行動を作り出すかを意識する必要があります。

最後に、4つ目として環境デザインを提案しています。これは我々が働き、遊び、学ぶような、生活環境におけるビジュアルシンボルや物理的なモノ、インタラクションを統合した非常に大きな範囲を意味しています。 具体的には組織のデザインやビジネスのデザイン等が含まれるでしょうか。

これはあくまでも私なりの解釈ですが、インタラクションデザインと環境デザインの違いとしては、持続可能性ではないかと思っています。例えば何らかのプロダクトによって人々の行動を変え、多くの人がそこに価値を感じたとしても、それがコスト的な問題や法的な問題などによって継続可能でなければそれはただの一時的なプロジェクトで終わってしまいます。そこで、それを長期間にわたり、可能であれば解決した問題が存在し続ける間ずっとソリューションを提供し続けるための仕組み(例えばわかりやすい例がビジネス化でしょう)を構築する必要があり、これこそが環境デザインと呼ばれる領域になるでしょう。

ここまででデザインと呼ばれる物を4つに分類しましたが、これらはデザインの対象が異なるだけでなく評価方法、教育方法も異なります。

多くの場合、グラフィックデザインとインダストリアルデザインは、外側から見える要素、例えば見た目の美しさや機能等で評価されます。そのためグラフィックデザインやインダストリアルデザインの学校では材料、ツール、テクニックが教えられてきました。

ところがインタラクションデザインや環境デザインにおいて機能や形はもちろん無視することができませんが、もっと内面的な評価軸が登場し重視されます。それはUseful(役に立つか)、Usable(使いやすいか), Desirable(好ましいか)等の評価軸が登場してきます。そうするとインタラクションデザインの学校では材料、ツール、テクニックはもちろん重要ですが、プロダクトが役に立ち、使いやすく、好ましくするためのリサーチ手法や検証、改善方法を中心に教えるようになってきます。

ちなみにこれらはどちらが重要という話ではなく順序の問題でもあります。例えばマンガを描こうと思った時に、絵の描き方を先に勉強してその後でストーリーの作り方やコマ割について学ぶ場合もあるでしょうが、ストーリーの構想や組み立て方について学んだあとで、絵の描き方について学ぶ場合もあるでしょう。もちろん原作者と漫画家に役割を分担する場合もあるでしょうがいずれにしても、素晴らしいマンガを作り出すためには文法の知識だけでも、ストーリーの構想力だけでもだめで、それらを組み合わせる必要があることは間違いありません。 

ユーザの置かれるコンテクスト理解の重要性

最近、デザイン分野のイベントになるべく顔を出すようにしています。先日、参加してきたのはUX Days Tokyoと言う団体による「コンテキストの理解と実践」というもの。

uxdt.connpass.com

このイベントの内容としては、下記のコンテキストに関するテキストを読み合わせ、それに関する簡単な課題を通してコンテクストについての理解を深めると言うものでした。

l-orem.com

イベントの内容としては上記した通りなのですが、下記ではUXにおけるコンテクストと言う側面から思うところを書いてみます。

コンテクストが重要と言うのはUI/UX評価経験者であれば当たり前のことです。サイトやアプリ、IoT製品でもなんでも良いのですが、ユーザとのタッチポイントを含むプロダクトやサービスをデザインする上で、コンテクストの重要性はスマートフォンの普及により、そして使用シーンの広がりにより高まる一方ですから、ユーザビリティ評価をする時にだってコンテクストには十分な配慮を行います。

スクリーンの外に出て、人が介在するサービスを考えると、顧客のコンテクストに配慮するのってとっても当たり前です。例えば高級レストランにいくと、女性側には価格の書かれていないメニューが出てくる場合があります。アパレル店舗の販売員は顧客のコンテクストを推測した上でアプローチを変えています。そしてこれらの対応が、顧客の満足度やコンバージョン率を高めていることは想像に難くありません。

私が研究テーマとしてWebサイトのユーザビリティ評価や改善などをしていた2008年ごろ、Webサイトと言うものは基本的に、PCから閲覧するものでした。もちろん、ノートパソコンは世の中に多く出回っていましたので、自宅のリビングで見るか、オフィスで見るか、カフェなど外出先でWebサイトを見るか等の違いはありましたが、制作側がサイト閲覧者の置かれたコンテクストに注意を払うことは、そこまで多くなかったように思われます。

例えば特定のサイトにリンクを張る時に「音が出ます!注意!」と書いたり、肌色が多いサイトへリンクを張る場合は「職場での閲覧注意」等の注釈をつけることはありましたが、それらは顧客の置かれたコンテクストに配慮していると言うよりは、限られた状況におけるお約束のような側面もありました。

しかしながらiPhoneAndroidのようなスマートフォンや、タブレットの普及等により、ユーザがアプリを使用したりWebサイトにアクセスするコンテクストの種類は大幅に増えています。例えば私自身が日常的に使用するiPhoneのアプリを考えてみても、例えばRuntasticはランニングや自転車に乗る時に使用しますし、Tカードのアプリはファミリーマートで会計する時にバーコードを表示するために使っており、それ以外のシーンで起動することはまずありません。目覚まし時計アプリは寝る前にセットして朝、アラームを止めるわけですからベッドの上以外で使用することはまず無いでしょう。このように、アプリの種類や目的によって使用するシーンがそれぞれ違うわけですから、望ましい画面UIや機能もそれぞれ違い、それを考慮した上でデザインを作り込んでいく必要があります。

アプリ開発者/デザイナからすると、顧客がどういったコンテクストで自分たちのアプリ、サービスを使用するかは自明であると思われるかもしれませんが、あえて明文化する事でチーム内でのズレを最小化する事も出来るでしょうし、自分たちが想定していなかった使われ方やコンテクストの存在に気づく事も出来ます。

明文化の方法としてはわかりやすいのは、ひとつはカスタマージャーニーマップや、ストーリーボードを使用する事によって、デザイナが想定するユーザのコンテクストを可視化していくことでしょうか。もちろんここで作成したマップは、いわゆる仮説検証プロセスの中で常に修正し、それをプロダクトに反映させていく必要があります。ログを解析してみたら我々が想定していたものとは異なる使い方をユーザがしていたと言う事も珍しい話ではありませんから、ユーザに対して届ける価値を最大化するために、ユーザを正しく理解していくことが重要です。

スタートアップにCDOが必要な理由 #CDONight #1より(前編)

Twitterでフォローしている坪田氏が「スタートアップにCDOが必要な理由 CDO Night #1 by TECH PLAYデザイナー部」と言うタイトルでイベントを企画されていたので遊びに行ってきました。

twitter.com

今回のイベントは3部構成で、坪田氏によるトークと、CCO/CDO/CXO(以下、イベントタイトルにならいまとめてCDOとします) 6名によるパネルディスカッション(若手編、シニア編)で構成されていましたので、それぞれに分けて書いていきたいと思います。ちなみにイベントで使われたスライドはこちらにあります。

speakerdeck.com

スタートアップにこそCDO職が必要な理由

坪田氏はフリーランスからキャリアをスタートさせライブドアDeNA、BCGデジタルベンチャーズを経て現在はOnedotでCDOを務めていらっしゃいます。

プレゼンテーションは氏のDeNA時代、事業を創りつつデザイン組織の立ち上げを担当されてらっしゃった経験についてから始まりました。デザインリソースが足らないとかデザインに関する意思決定が出来ないなど、悩みながら組織運営をされていたそうですですが最終的には全部で200名ほどの組織まで成長させたそうです。ちなみにその時の話については下記のスライドが大変参考になるので一読をオススメします。

speakerdeck.com

そしてその後はBCGデジタルベンチャーズに転職され、その流れで現在CDOを勤めるOnedotに移られたそう。お話を伺っていると、こういった経歴の中で経験されたことがスタートアップにおけるCDOの必要性を意識されたきっかけでもあるのかなと感じます。

例えばこれは私自身も近い経験があるのですが、本来、デザインの事を一番わかっているのはデザイナなので、デザイナが予算やリソースをコントロールすべきなのに関わらず、多くの事業会社ではデザインに関する意思決定権がデザイナにありません。なぜならデザイン部門のマネージャって、デザイナのマネージメントはするのだけれど、プロダクトに関する意思決定などまでは踏み込め無いことが多く、これではいくら良いプロダクトを作ろうと思っても限界があることが多いんですよね。

坪田氏の場合は会社と交渉して意思決定や予算に関する権限をデザイン部門に引っ張ってきたそうですが、そこそこの規模の企業においてデザイナがそこまでやるのって相当に大変なのは想像に難くありませんし、これが組織のスピードにブレーキをかけてしまいます。

CDOがいない組織/いる組織

上記スライドは、よくあるスタートアップ(左)と、坪田氏が理想的だと考えるスタートアップ(右)の組織構成比較です。左はエンジニアのトップ(CTO)とビジネスのトップ(CEO)が取締役として会社をドライブさせて、デザイン組織はCEO(あるいはビジネス部門)の管理下といいうスタイル。それに対して右はCTO、CDO、CEOがそれぞれテクノロジ、デザイン、ビジネスを見ると言うスタイルですね。

一般的にビジネスの人はエンジニアリングについて詳しくないことが多いため技術担当役員を配置することは多々あります。なぜならシステムアーキテクチャについて相談されても知識や経験が無いことには適切な判断を下せません。しかしながらデザイン領域に関しては、デザインを専門に勉強してない場合であっても、雰囲気で意思決定が出来てしまうんですよね。この色は好きだとか嫌いだとか。なんとなくこっちのほうがかっこいいとか。この組織形態の場合、デザイナが最終的な意思決定に関与出来ないし予算に関してもビジネス任せになり、指示待ち状態で仕事を進める事になります。しかしデザイン担当のCxOが居る組織の場合は3つの分野において責任をわけてものづくりを進めることができて効率よく正しいものを作れるとのことでした。

CDOの仕事とは?

では、CDOの仕事には何が含まれるのでしょうか。氏の発表で触れられたものは下記の画像にもあるように大きく3つ。プロダクト、人事、会社作りです。

プロダクトに関してはKPI云々もそうですが社長と対等なパートナーとして、ビジョンが常に擦り合っている状態であることが重要で意思決定が降りてくるような状態ではなく常時シンクロされてないといけません。 また、デザインに関して適切な予算が完全委譲されていることも必要でそのためには予算と人事権が重要となってきます。何かをするためにいちいちお伺いを立てるのであればそれは中間管理職でしかないため、その点を明文化していく必要があるそうです。

なお、ここで言う人事権とは、部下を、社内の人材をどう使うとかの話ではなく、誰を採用するのか、何を外注するのか、スタッフの給与をどう設計し育成していくのかにも責任を負います。会社に関しては組織ブランディングや、勤務体系やツール選定など。会社作りに関しては、そこまでCDOがやるの?とも感じましたが、最近だと組織デザインを行うデザインファームが増えてきているのもあり、それはそれでありなのかも知れません。

インハウスデザイナの重要性

これまでデザイナは絵を描く、グラフィックがひとつのスキルとしてありましたが、今後はドメインに結びついた知識がないとデザインが出来なくなってくるとのことでした。例えば、証券関係や決済などは法律が複雑で、そういった法律をきちんと理解せずに適切なUIを作ることは出来ません。今後、このような領域固有の強みを作っていこことがキャリア的に有利だし、それは外注への依頼が難しくなる事を意味します。

例えば、デザインファームにフィンテック関連のUIデザインを依頼しても、彼らが関連法律やAPIの調査などフィンテックの基礎知識から勉強しはじめると、それだけで大変な時間がかかるし、すぐに結果を出すことは困難です。だからこそインハウスでデザイナを抱えることが組織にとって強みになるとのことでした。

CDOになる際の注意点

ここで坪田氏自信がCDOになったときの話もありました。氏の場合は社長に直接メッセージを投げて条件交渉などを行ったそうで、年収がいくらでストックオプションがいくらで、兼業可能で制作実績を公開可能とするなどの条件面の他、責任範囲と裁量を明確化して自分が何をするか、何をやっていいかなどを明確にしたそうです。

経営者向けのメッセージ

会場にはスタートアップ経営者の方もいらっしゃっていたようですので彼らに対してデザイナー採用のメリットの説明もありました。(そもそもこういった説明が必要な経営者がこういうイベントに来るのか個人的には疑問ですが)

経営目線から見たスタートアップにおけるデザイナの重要性はつまるところ、スクラップ・アンド・ビルドで素早く物を作れるので、プロダクトが早く高品質で作れると言うわかりやすいメリットや、 ジャンル特価型デザイナを初期から育てる いきなり入った人にフィージビリティを考えたうえでUI設計するのはハードルが高く数ヶ月かかるなどの点でした。とはいえ、デザイナーをいきなりフルコミットで雇える会社も多くないでしょうから、フリーランスでも良いので一人捕まえて会社のブランドデザインなど環境整備などを行っていく方が中長期的に見てリターンが大きいというのが氏からの提言でした。

デザイナ向けのメッセージ

デザイナに向けての提言としては、CEO/CTOと阿吽の呼吸で作れる環境は楽しいけど、そのためには適切な裁量が必要だよということ。そしてそのためには強いジャンルを作り自分の市場価値をあげつつ。お金、法律、フィージビリティと向き合い続けることが重要だとのことでした。

磨り合わせポイント

最後にこれはデザイナと経営者双方向けだと思うのですが、スタートアップへのジョインにあたり双方が認識を合わせておくべき項目について言及がありました。まずはCDOの定義について。CDOというよりデザイナと言う単語から生まれるギャップなのかも知れないですが、なんでもやる便利屋さんではないよと言うこと。何をやる、何をやらない、何が得意、何が苦手などを話した方が良いということ。

さらに、スタートアップのイメージとして給与が安いと言うのは往々にしてありますが、資金調達しているところに関しては決してそういうことはありませんので交渉すべきだと。その他の項目としては予算などの裁量がどこまであるかと、社長との相性の重要性について。前述模した通り、フリーランスなどの形で週に数回と言うレベルで構わないので中に入って社長との相性を見るのは重要だと思われます。

そして最後にSO条件について。これに関してはノリで決めないこと。実際問題あまり世の中に情報として出回っていないのですが、ここを甘く設定してしまうと2年ほど死ぬほど働いても悲しい事になったりするので気をつけるべき、とのことでした。

おわりに

以上、早足で坪田氏のプレゼンテーションの概要について説明しましたが、結局のところデザインの定義が広がってきたために、適切な知識や経験が無いとビジネスにとって適切な判断を下すことが困難になりつつある背景があります。

これまで一般的にデザインと言った場合、グラフィック(コミュニケーション)だとかプロダクトをデザインの対象として扱うことを指していました。インタラクションデザインやサービスデザインと言う概念が登場したのは90年代あたり、一般に普及し始めたのは00年代でしょうか。インタラクションデザインと言った場合、デザインの対象はユーザの行動ですし、サービスデザインと言った場合、デザイン対象はユーザの行動をビジネスとして成立させる事が含まれてきます。

これには多くの専門知識やスキルが求められ、いわゆるビジネスの人の手に追えるものでは無くなってきつつあります。そして同時に、デザイナにとってはその部分に関する裁量をビジネスチームが握っている事に対し、我々ならもっと上手くやれるのにと言う欲求の高まりがあったのでしょう。

なお、話の中でデザイナも業界固有の知識、経験を得てそれを強みとする必要性が語られていましたが、これら業界知識の必要性はいわゆるコンサル諸氏にとってはおそらく常識中の常識で、彼らは業界ごとに自分の専門性を深めて行っています。流通とか製造とか、金融とか。これに関してはむしろこれまでデザイナが表面的な部分でしか携わっていなかったからこそ許されていた点でもあり、デザイナの活躍領域が広がるにつれて当然そのあたりのスキルセットが要求されてくるよという話なのかなと思います。

スタートアップにおいてCDOが必要とされる/普及しつつある背景にはこういった事情もあり、経営側とデザイナ側の利害が一致しているわけですから、この流れは今度ますます加速していくはずです。

勉強会参加日記:ユーザファーストなサービスの作り方とは?

ユーザファーストなサービスの作り方とは?というテーマで、下記のような勉強会があったので顔を出してみました。

mwed.connpass.com

以下、それぞれの話を聞いて思ったことなど。

BASE株式会社の早川 宗亮氏『ユーザーと育てるサービスのデザイン』

BASEは、特別な知識なく簡単にECサイトを構築するためのサービスです。

thebase.in

当初、想定していたユーザ層と言うのは創業者のお母様だったらしく、いかに簡単にECサイトを開設し運用するかを突き詰めて考えたシステムになっています。ところが、これはBASEに限った話では無いのでしょうが、サービスが成長してくると、最初に定めた想定ターゲットユーザ、想定利用方法を超えたユーザ、や利用方法がなされてくる事も往々にしてあるんですよね。

そういう状況下においてデザイナは、今後自社のサービスをもっと成長させていくために、サービスの方向性を決めて行かなければなりません。例えば、どういった機能があると良いのか?と言う問いかけは基本的ですが非常に重要なものであると思われます。

プレゼンの中で紹介されていた仮説として「ユーザーはBASEに対して簡単である事を魅力として感じているのだから、複雑なカスタマイズ機能などを削ぎ落とすことにより多くのユーザから支持されるのではないか」と言うものがありました。

ところが実際にこの仮設を元にデザインテンプレートを提供してみたものの、いまいち反応が良くない。それどころかむしろ、細かいカスタマイズに対応したものの方がユーザに受け入れられていたそうです。ショップオーナーとしては、ECサイトを構築する事に苦労したくはないが、自分の思いを形にして世の中に発信していく事に関しては多少のハードルがあっても乗り越えるモチベーションがあると考えられるわけです。

しかし、これって非常に興味深い知見ですよね。通販サイト開設に関するカスタマージャーニーマップを書くなどしてサービスの分析を行い、改善に繋げる事自体は多くの会社、多くのサービスでもやられていることだと思いますが、これってどうしても想定顧客の設定に引きずられてしまいます。

そこで、このような仮説検証を繰り返しながら、想定しているユーザ層をアップデートしていく必要があるわけです。例えば、想定顧客として、とにかく簡単にECサイトを開設運営したいITリテラシの低い人を設定してしまったりすると、ショップをカスタマイズしたいというニーズは出てこないでしょうが、今回のプレゼンであったように仮説を立てて実施して抽出したインサイトが、今後のサービスの方向性を決める助けになるはずです。

ランサーズ株式会社 上野 翔平氏『ゼロイチにおいて、デザイナーがやるべき取り組み』

続いてはランサーズ株式会社の上野氏による発表でした。内容は新規事業の創出、いわゆるゼロイチにおいてデザイナーがすべき取り組みについて。ランサーズはいわゆるクラウドソーシングサービスを提供している会社です。

これまでランサーズはWebやアプリ開発などプロフェッショナルなスキルを持った人達に仕事を依頼出来るプラットフォームとして成長してきましたが、現在は新しいサービスPookをベータテスト中だそう。

s.pook.life

このサービスは、ネイルや料理などの仕事に関するプラットフォームを目指して居るとのことで、上野氏がデザイナーとして携わっているのだそうで、仮説を検証しながらピボットを繰り返しているということでした。

ユーザファーストというよりも、ファーストユーザを探すフェーズだと仰って降りましたが、リーンスタートアップ的なやり方において、まさしく最初の部分におられるんだろうなと言う印象を受けました。

さて、プレゼンの中で彼が言及していたデザイナの役割とは私の意訳も多少入りますが、一言で言えば「プロトタイピング(仮説検証のプロセス)を加速させる」だとのこと。

例えば、わかりやすい具体例だと作った仮説を元にプロトタイプを作成して開発メンバーと認識合わせをして議論するようなことがあげられます。最近だとXDとかSketchとか色々あり、プロトタイプを容易に作成出来るようになってきています。結局のところ製品開発と言うのは真っ直ぐな道ではないの大小程度の差はあれ手戻りが絶対に発生するものなのですが、この手戻りコストをいかに削減するかがプロトタイピングスピードを上げるために必要な取り組みとなります。

他の例としては、ユーザインタビュー(デプスやフォーカスグループ)によるユーザ理解があげられていました。プロダクトの改善に繋げるための仮説を立てるため、インサイトを抽出するためにも必要でしょうし、自分たちのプロダクトのターゲットを絞るためにも必要だと思われます。自分たちの想像でアレコレ考えて仮説を立ててプロトタイピングを行うよりも、実際のユーザーに会い知見を得る事によって仮説の精度をあげ時間を短縮するのもデザイナーの役割だということですね。

そして最後にあげられていたのがサービスのコアバリューを決めること。コアバリューを決めると共通認識のもと議論することが出来、やるべきこととやるべきでないことを絞り込む事ができ、結果として時間削減をすることが出来ると言うメリットがあるとのことでした。ちなみにコアバリューに関しては下記の本が大変参考になったとのことでした。

コンセプトのつくりかた

コンセプトのつくりかた

 

プロトタイピングを加速させるのがデザイナの役割と言うのは初めて聞きましたが一般的な新規事業立ち上げチーム(企画、デザイン、開発、営業のような)において新規事業立ち上げとはプロトタイピングそのものですし、そのプロセスに対して誰が責任を持つかと言う点で考えるとデザイナが果たすべき役割は大きいのかもしれません。もちろんすべてのステークホルダーが意識すべき問題ですが。

株式会社トクバイ 吉井 裕貴氏『サービス開発におけるデザイナーのホントの役割』

最後のプレゼンは株式会社トクバイの吉井氏によるものでした。トクバイはクックパッドから独立した会社でチラシやクーポン、タイムセールなどお得情報を配信するプラットフォームです。

tokubai.co.jp

日本人は平均すると700回/年ほど買い物をするそうですが、そのなかで楽しいと思える買い物を増やす事をミッションに彼らはサービス開発を行っているのだそう。

され、吉井市のプレゼンはデザイナーの役割とはについてです。氏によればToBeを描くことこそがデザイナの仕事だという事でした。例えばこうしたいとか、こうあるべきとか、そういうやつですね。

例えば具体的な例として出てきたのはチラシ情報で、各店舗が個性を出せると彼らは嬉しいのでは?と言うこと。フォントの問題もそうですし、見せ方の問題もあるはずです。例えばスーパーであれば網羅性が大事かもしれませんが、惣菜屋だとこだわりポイント(材料だとか、調理方法だとか)の訴求をしたいかもしれませんし、クリーニング店だと各衣料ごとの価格リストを提示したいかもしれません。

こういった仮説を作って、ササッとプロトタイプを作ってチーム内で共有することによって、チーム内で「良いじゃん」を集めて開発ラインに乗せていくわけです。つまり、「こんなんなったらよくないですか?」を考えてどんどん可視化することがデザイナの役割である、と。

おわりに

ユーザファーストなサービスの作り方と言うタイトルの勉強でデザイナの役割についてのトピックが出てきたのは個人的に大変興味深い部分でありましたが、3名の方が述べてらっしゃるところによれば、ユーザファーストなサービスを作るためには結局のところ、デザイナがプロジェクトをファシリテートと言うか、プロジェクトをいかにドライブさせていくか重要であるのかなと言う印象を受けました。そしてそのために必要なことはコンセプトを作り、ユーザーと話をして、チームを巻き込みながらプロトタイピングをまわしていくこと。こういったプロセスや考え方が今後日本のスタートアップにもより根付くといいなぁと個人的には思っています。

AirBnBデザインの変化

私は大学院時代、ユーザビリティ評価が専門でした。そのときお世話になった先生に言われたのが、悪いデザインのはすぐに見つかるが、良いデザインを見つけるのはとても難しいと言うこと。良いデザインと言うのは当たり前に世の中に存在しているせいで、きちんと注意してみないと気が付かないんですよね。それ以来、ユーザビリティ、もっと言えばユーザエクスペリエンスなども含めて、サービスやプロダクトを使用する際には良いところや、工夫したんだろうなぁという点を意識して探すようにしています。

とはいえ、世の中のアプリやサービスを使う時に、それを作ったデザイナの人たちが何を考えたのか、と言う点 に思いを馳せるのは非常に楽しい。デザイナ達は通常、自分たちの成果物に対して細心の注意を払っています。もちろん、デザイナによってどこにフォーカスするかというのはそれぞれあると思うのだけれど、限られた時間、予算、ステークホルダーからの要望など、様々な制約の中で少しでも良いものを作りたいと言う思いは万国共通です。

目の前にあるサービスやアプリのUIやUX、ビジネスモデルを見ながらアレコレ考えるのももちろん楽しいです。そして、私がたまにやっているのはインターネットアーカイブWebサービスの過去ページを眺めたりすることです。

例えば私が旅行をする際にお世話になる事の多いAirBnBAirBnBって、あまり意識している人は居ないかもしれませんが、結構大幅に方向性を変えながら成長してきたサービスなんですよね。

www.airbnb.com

そこで、本エントリでは、AirBnBのトップページを追いかけながら、私の思うところを勝手に書いてみたいと思います。あくまでも私が好き勝手書いているだけなので、正解かどうかは知りません。また、本記事で引用する画像はすべてインターネットアーカイブによってスナップショットが取られたAirBnB社のものです。 

2008年のAirBnB(Airbedandbreakfast.com):イベント時の宿泊先検索サービス

AirBnBの場合、www.airbnb.comでの最初のスナップショットは2009年の2月。ですが実は彼らはairbnb.comと言うドメインを取得する前に、Airbedandbreakfast.comと言うサイトでサービスの運営をしていました。Airbedandbreakfast.comで検索すると一番古いものは2007年ですが、サービスとしてロンチしたのは2008年3月のものかなと思います。下記にスクリーンショットで引用します。

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https://web.archive.org/web/20080306054701/http://www.airbedandbreakfast.com:80/

初期のAirBnBはイベントなどでホテルが飽和してしまい予約出来ないときのためのサービスでした。サイトのトップページを見ても、あくまでもイベント参加者のためのサービスで、一般的な旅行者をターゲットにしていたようには見受けられません。そしてトップページにベッドのイラストと食事のイラストが大きく描かれており、サイトの目的を伝達しようとしています。また、検索システムがあるものの、あくまでもイベント名から検索するようなシステムになっています。

2009年のAirbnb:新しい形の旅行をするためのサービス

2009年3月になると、彼らはAirbnb.comのドメインを取得し、サービスのリニューアルがなされます。左上のロゴの横にある文字は「A new way to trabel」とあり、イベント参加者というよりも、旅行者全般をターゲットにし、かつホテルに宿泊するのとは異なる楽しみ方があるよとアピールしているように感じられます。また、検索も場所、日付から検索出来るようになっております。

トップページで目を引くのはやはり、宿泊先物件の大きな写真と、そこに添えられるホストの写真でしょうか。これによってユーザがいちいち検索しなくても、どのような物件がリスティングされているかを提示することが出来ています。また、部屋の写真だけでなくホストの写真を表示しているところも、通常のホテル予約サイトとは異なるんだという点を前に出していますね。

ただ、この段階で興味深いのは、あくまでもホテルの代替手段であると言うポジションを持っているところかと思います。これはワシントンDCなら一泊10UDから、パリなら20ドルから、サンフランシスコなら29ドルから宿泊出来ますよとアピールしている点から見受けられます。

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https://web.archive.org/web/20090305093538/http://www.airbnb.com/

 

2010年のAirBnB:現地人とのふれあいを実現するためのサービス

2010年になっても、トップページのレイアウトに大きな変化は見られません。しかしながらロゴの横のキャッチフレーズが「Travel like a human」になっています。これの意図するところは不明ですが、現地人とのコミュニケーションをもっと楽しもう、あたりなのかなと推測できます。

例えば、検索フォーム下部に4つ並んだリンクの中にはStay with Alumniと言う項目があり、おそらく自分の出身大学の卒業生の家に泊まってみてはいかがでしょうという提案なのかなと思います。その隣にはニューヨーク・タイムズの記事へのリンクが置かれています。リンク先はこの記事です。リンク先を読んでみるとAirbnbのサービス内容が容易に理解出来ますし、このサービスを使ってみたいと思わせる内容になっています。

彼らがこの記事をここに置いた意図もなんとなく理解出来ます。

f:id:mikio-k:20170919235355p:plain

https://web.archive.org/web/20100620172729/http://www.airbnb.com:80/

 

2011年のAirBnB:ユーザの裾野を広げようとする

 2011年頃のAirBnBで 注目すべきは検索窓の下に並んだ4つのリンクです。アプリのPRや、素敵な物件の紹介、AirBnBに関連した動画集、AirBnBの使い方の説明と言う新コンテンツが登場しそこへの誘導が図られています。

この重要なスペースをそれらのために取るということから想像すると、この時期、ユーザ数が増えたと同時に、一般ユーザにもわかりやすくAirBnBのシステムを説明する必要性が高まったと考えられそうです。また、システムについて説明すると同時に、Airbnbの魅力についてユーザとコミュニケーションを取る必要にも駆られ、その結果登場したのAirBnB TVなのではないかと考えられます。

 

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https://web.archive.org/web/20110321010753/http://www.airbnb.com:80/ 

 

2012年前半のAirBnB:収益性と安全性をアピール

2011年後半からその兆候があったのですが、2012年のAirBnBの注目すべきポイントは、安全性のアピールと、物件オーナーに対する収益性アピールです。

まず安全性について、画面上部に書かれているのは24時間365時間のサポートがありますよという点。それから画面株に相変わらず並んだ4つのリンクですが、そのうち2つが安全に関する内容となっています。

たしかに、一般のユーザからしてみれば知らない人の家に泊まるのは不安なものですし、オーナーからしたって知らない人が家に泊まりに来るなんて不安でいっぱいですよね。これらを解決するためにこのようなコンテンツをここに配置しているのでしょう。

そして収益性に関するアピールですが、画面下部に並んだ4つのリンク、驚くべきことに、左から1つ目と、3つ目は飛び先が同じなのです。内容はどちらも、あなたが所有している物件を使って収益を生み出しませんか?と言うもの。

当たり前の話ではありますが、AirBnBが成長するためには、トランザクションを増やす必要があって、そのためには豊富な物件リスティングが絶対に必要です。そのため、新規リスティングを確保するために力を入れていたんだろうなと想像出来ます。

f:id:mikio-k:20170920003637p:plainhttps://web.archive.org/web/20120425122816/http://www.airbnb.com/

 

2012年後半のAirBnB:写真の力を利用

これまで約4年間、ほぼ変わらぬレイアウトを貫いてきたAirBnBですが2012年後半にAirbnbは大きなデザインの変更を行います。物件写真を大きくトップページに表示する方式ですね。

ここで個人的に注目したいポイントは宿泊先の検索サイトであるにも関わらず、日付を指定出来ない仕組みになっている点です。地名からしか検索することが出来ません。この方式であれば、空き状況に関わらず物件を表示させることが出来るので利用者はその土地の様々な物件を検索結果として見ることが出来ますが、さっさと予約したいユーザ的にはどうなんでしょうね。なお、さすがに不評だったのか、この1ヶ月後には、トップページから日付や宿泊人数による検索が出来るように修正されています。

ちなみに、このスクリーンショットは1024*768で取得しているので表示されていませんが、下方向にスクロールすることができて、スクロールすると2012年前半と同様の4つのリンクが出現します。

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https://web.archive.org/web/20120728194330/https://www.airbnb.com/

2013年のAirBnB:旅先での体験も包括的に?

2013年になるとAirBnBは「Neighborhood Guides」と称して各都市のスポット紹介を始めます。トリップアドバイザ的なコンテンツを狙ったのかなと思います。

f:id:mikio-k:20170920010759p:plain

https://web.archive.org/web/20130424065140/https://www.airbnb.com/

2014年のAirBnB:体験をの価値をもっと打ち出す

2014年には大幅なリニューアルがありました。まず目につくポイントは「Welcome Home」でしょうか。ホテルでは得られない体験を提供するというAirbnbのコンセプトを表現しているんだろうなと言うことがわかります。

そして、トップの画像が動画になっています。そしてこれまでは宿泊先の画像をトップページに大きく表示して「こんなに魅力的な宿泊先に泊まれますよ!」という点をアピールしていたのですが「旅先で、こんな感じの体験はどうですか?」というアピールに変わっています。

なお、このリニューアルに合わせて、AirBnBは新しいロゴを導入しています。この画面をスクロールするとその説明動画がでてきます。

また、このリニューアルが行われてからしばらくたつとBelong Anywareのコピーが登場します。

f:id:mikio-k:20170920012316p:plain

https://web.archive.org/web/20140924041238/https://www.airbnb.com/

2015年のAirBnB:Belong Anywhere

2015年になっても基本的には大きく変わりません。あえて言うならWelcome HomeがBelong Anywhereになったぐらいでしょうか。

f:id:mikio-k:20170920020704p:plain

https://web.archive.org/web/20150828181453/https://www.airbnb.com/

 

2016年前半のAirBnB:Live There

大きく変わったのはコピーでしょうか。Weclome HomeからLive thereに変わっています。日本語で言うと、暮らすように旅しようが相当するのかもしれません。

なお、検索フォームの下にOur Communityと言う項目が見えますが、これは数年前からあったものです。ただし、それを画面上部に近い目立つところに持ってきて、コミュニティの繋がりをサービスの前面に出そうとしているのかなと言う雰囲気を感じます。

f:id:mikio-k:20170920020929p:plain

https://web.archive.org/web/20160602025743/https://www.airbnb.com/

2016年後半のAirBnB:体験のリスティング

ここからAirBnBは急展開を迎えます。これまでの宿泊を前面に打ち出したサービスから、体験をもっと重視する方向に変化していくわけです。例えば、寿司職人の体験だったり、とある施設の舞台裏への案内などがよくリストに上がっていますね。このトップページは、宿泊に関する検索ももちろん出来るようになっているのですが、こうした体験もAirBnBで予約出来るんだよという事を伝えようとしているのでしょう。

ちなみに、個人的にすごいと思うのは、この画面のどこを探してもAirBnBと言う文字が無いのです。もちろん左上にロゴがあるのでこれがAirBnBのサイトだと分かる人にはわかるのですが、思い切った判断だなと感じます。

f:id:mikio-k:20170920021703p:plain

https://web.archive.org/web/20161124081410/https://www.airbnb.com/

2017年のAirBnB:とにかくシンプルに

そして現在に至ります。最後のだけはインターネットアーカイブではなく現在のairbnb.comのサイトからスクリーンショットを引用します。

画面構成は非常にシンプルですが、色々な情報が詰め込まれているのがわかります。個人的に面白いなと思うのは、これ検索ボタンがないんですよね。画面上部に検索条件を指定するボックスがあって、この値を変更すると、下部に表示される検索結果が自動読込される仕組みになっています。

また、AirBnBの歴史を振り返って見て一番大きな変化は、検索結果としてはじめに表示されるものが「体験」の項目なんです。宿泊先を探すためにはタブを1クリックしなければ行けないと言う、AirBnB的には非常にチャレンジングなデザインの変更ではないかと思いました。

とは言えこれは、AirBnBで宿泊先を探せると言う事を、多くの人が常識として認知しているからこそ出来るんですよね。仮に知名度の低いサイトが同様の事をしたとしたら「あれ?宿泊の取扱を辞めたのかな?」なんて思う訪問者がいたって何の不思議もありません。

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https://www.airbnb.com/

おわりに

以上、2008年から2017年までのAirBnBのサイトのスクリーンショットとともに追いかけて見ましたが、リリース当初から現在に至るまでのサービスの方向性の変化や、彼らが何を重視していたか、何を考えていたかがWebサイトに現れており非常に興味深く感じます。

今回はAirBnBのサイトを例に取り上げましたが、他のWebサービスでも同様に時間とともにメッセージの伝え方などが変化している場合が多くあり、サービスや、それを取り巻く環境の変化などと合わせながら読み解くと学べることが多いのではないかと思いますし、自社のサービスに対しても適用出来るようなテクニックを見るけることが出来るのではないかと思います。