アンカーデザインブログ

craft beautiful experiences.

デザインって結局なんなの?に対する回答(デザインの4分類)

「デザインってなんなんですか?」

私がデザインの話をしていると、少なくとも月に一回、多ければ毎週のようにこの類の質問を受けます。たしかに、多くの日本人がデザインと言う単語からイメージするものは、ポスターやチラシを作るような一般的にグラフィックデザインと呼ばれるようなデザインであったり、iPhoneやあるいは家電製品等を形作るようなインダストリアルデザインだったりすることが多いように思います。だけど私はグラフィックデザインやインダストリアルデザイン分野でご飯を食べられるような知識やスキル、実績があるわけではない。じゃぁ一体こいつはなんなんだ。デザインとは、デザイナとはなんだ?って事になるのもわからなくはありません。

CIIDがいわゆるデザインスクールであり、デザインスクールがデザイナを育てていることに異論を唱える人はほとんど居ないでしょうから、そういう意味では私はデザイナなのでしょうが、少なくともCIIDが標榜するインタラクションデザイン、あるいはサービスデザインがデザイン業界の中でどのようなポジションに置かれるかを説明する必要があるとは感じて居ます。

これに関しては下記のブログでも書きましたし、自分なりになんとか解釈して説明しようとするのですが、いまいちしっくり来ていないのが事実でもありました。

ddcph.hatenablog.com

ところが最近、CIID留学中に取ったノートやらを見返しているとRichard Buchanan氏によって2001年に書かれたDesign Research and the New Learningという論文への言及がありました。この論文はインタラクションデザインの授業の冒頭で紹介されたものであり、当時は授業についていくのが精一杯だったので斜め読みしかしていなかったのですが、真面目にちゃんと読んでみるとなかなかに面白い。下記にGoogle Scholarのリンクを貼っておくので、興味のある方は読んでみてください。

Design Research and the New Learning

この論文自体はデザイン研究に関する議論で始まっています。研究分野としてのデザインが置かれる現状と課題、そしてデザイン教育に課題なども言及されており、これはこれで非常に興味深い内容ですが本エントリの趣旨から脱線してしまいますので論文を読み進めインタラクションデザインの定義について話を戻しましょう。

論文の中ではデザインの定義を試みた歴史についていくつかの紹介があります。例えば、Paul Rand氏は“Design is the creative principle of all art”と述べていますし、Ralph Caplan氏は“making things right”とデザインを定義しているようです。

この論文の著者であるRichard Buchanan氏は“Design is the human power of conceiving, planning, and making products that serve human beings in the accomplishment of their individual and collective purposes"と述べています。この定義、とても興味深い。たとえばデザインはhuman power(人間の能力)であると述べている点や、デザインのプロセスにはconceiving(思いつく), planning(企画する), and making(作る)があると述べている点など。

おそらく、デザイン教育に対する著者の提案との繋がりもあるのだと思うのですが、こう定義する事で教育カリキュラムを設計しやすくなるのは事実でしょう。Paul Rand氏やRalph Caplan氏の定義は非常に印象深いものであるものの、ではデザイナをどうやって育てれば良いのかと言う具体的なところを議論することができません。実際、CIIDではデザイナの役割をOpportunity finding、Storytelling、Executingと定義していますしこれは現在わりと一般的な考え方なのかもしれません。

では、この定義において、プロダクトとは何を指すのでしょうか。氏は、デザインを4つに分類することを提案しています。

f:id:mikio-k:20171029042105p:plain

最初の1つ目は グラフィックデザインです。グラフィックデザインで扱うデザイン対象物は従来、印刷物が中心でしたが、現在では映像、GUIなど、グラフィックデザインと呼ばれる範囲が増えてきており、それに伴いこの分野をコミュニケーションデザインと呼ぶ事もあります。これはグラフィックデザインの本質が、言葉や画像などの情報を人々にいかにして伝達するかにフォーカスしているからであり、映像やGUIなどカバー範囲が広がっても、情報を人々に伝えるためのデザインという本質部分は同一であると考えることが出来るからでしょう。

2つ目はインダストリアルデザインです。インダストリアルデザインは物理的なモノのデザインです。大量生産の消費財のデザインをプロダクトデザインと呼ぶこともありますが大きな違いはありません。グラフィックデザインとインダストリアルデザインの違いは、デザインの対象がビジュアルシンボルか物理的なモノかであるとも言えます。なお、ここで重要なポイントとして、インダストリアルデザインとして何か物理的な物を作り上げる際には、グラフィックデザインが必要になってくる点です。例えばiPhoneを想像して頂くと良いかと思うのですが、ハードウェアとしての造形の他に、iOSというソフトウェアを作り上げる必要があり、そこにはグラフィックデザインの知識、スキル等が要求されます。

さて、ここまでは比較的従来の「デザイン」という単語が持つイメージから大きな乖離が無いと思いますが、3つ目のインタラクションデザインと、4つ目の環境デザインについてはデザインに興味の無い多くの人にとって馴染みの少ないものであろうと思います。

インタラクションデザインは製品を通して人々の行動や経験をデザインします。インタラクションデザインにおける成果物は、ビジュアルシンボルの場合もあれば、物理的なモノの場合もあるでしょうし、場合によっては人と人とのコミュニケーションの取り決めかも知れません。 

実際のものづくりにおいて、ビジュアルシンボルや物理的なモノを作ることが重要であることは疑いようがありませんが、それが人々の行動に何らかの影響を与え、人々の経験の一部とならなければ、作り出したプロダクトに価値はありません。

「誰もいない森の中で木が倒れたら音がするか」という哲学的な問いがあります。空気の振動が発生するのは確実として、それが耳に入らなければ音ではない。人々に影響を与えない制作物は上記問いと似たようなもので、極端な事を言ってしまえばプロダクトでは無いのかもしれません。したがって、デザイナは自分たちが作り出したものが人々のいかなる行動を作り出すかを意識する必要があります。

最後に、4つ目として環境デザインを提案しています。これは我々が働き、遊び、学ぶような、生活環境におけるビジュアルシンボルや物理的なモノ、インタラクションを統合した非常に大きな範囲を意味しています。 具体的には組織のデザインやビジネスのデザイン等が含まれるでしょうか。

これはあくまでも私なりの解釈ですが、インタラクションデザインと環境デザインの違いとしては、持続可能性ではないかと思っています。例えば何らかのプロダクトによって人々の行動を変え、多くの人がそこに価値を感じたとしても、それがコスト的な問題や法的な問題などによって継続可能でなければそれはただの一時的なプロジェクトで終わってしまいます。そこで、それを長期間にわたり、可能であれば解決した問題が存在し続ける間ずっとソリューションを提供し続けるための仕組み(例えばわかりやすい例がビジネス化でしょう)を構築する必要があり、これこそが環境デザインと呼ばれる領域になるでしょう。

ここまででデザインと呼ばれる物を4つに分類しましたが、これらはデザインの対象が異なるだけでなく評価方法、教育方法も異なります。

多くの場合、グラフィックデザインとインダストリアルデザインは、外側から見える要素、例えば見た目の美しさや機能等で評価されます。そのためグラフィックデザインやインダストリアルデザインの学校では材料、ツール、テクニックが教えられてきました。

ところがインタラクションデザインや環境デザインにおいて機能や形はもちろん無視することができませんが、もっと内面的な評価軸が登場し重視されます。それはUseful(役に立つか)、Usable(使いやすいか), Desirable(好ましいか)等の評価軸が登場してきます。そうするとインタラクションデザインの学校では材料、ツール、テクニックはもちろん重要ですが、プロダクトが役に立ち、使いやすく、好ましくするためのリサーチ手法や検証、改善方法を中心に教えるようになってきます。

ちなみにこれらはどちらが重要という話ではなく順序の問題でもあります。例えばマンガを描こうと思った時に、絵の描き方を先に勉強してその後でストーリーの作り方やコマ割について学ぶ場合もあるでしょうが、ストーリーの構想や組み立て方について学んだあとで、絵の描き方について学ぶ場合もあるでしょう。もちろん原作者と漫画家に役割を分担する場合もあるでしょうがいずれにしても、素晴らしいマンガを作り出すためには文法の知識だけでも、ストーリーの構想力だけでもだめで、それらを組み合わせる必要があることは間違いありません。