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スタートアップにCDOが必要な理由 #CDONight #1より(前編)

Twitterでフォローしている坪田氏が「スタートアップにCDOが必要な理由 CDO Night #1 by TECH PLAYデザイナー部」と言うタイトルでイベントを企画されていたので遊びに行ってきました。

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今回のイベントは3部構成で、坪田氏によるトークと、CCO/CDO/CXO(以下、イベントタイトルにならいまとめてCDOとします) 6名によるパネルディスカッション(若手編、シニア編)で構成されていましたので、それぞれに分けて書いていきたいと思います。ちなみにイベントで使われたスライドはこちらにあります。

speakerdeck.com

スタートアップにこそCDO職が必要な理由

坪田氏はフリーランスからキャリアをスタートさせライブドアDeNA、BCGデジタルベンチャーズを経て現在はOnedotでCDOを務めていらっしゃいます。

プレゼンテーションは氏のDeNA時代、事業を創りつつデザイン組織の立ち上げを担当されてらっしゃった経験についてから始まりました。デザインリソースが足らないとかデザインに関する意思決定が出来ないなど、悩みながら組織運営をされていたそうですですが最終的には全部で200名ほどの組織まで成長させたそうです。ちなみにその時の話については下記のスライドが大変参考になるので一読をオススメします。

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そしてその後はBCGデジタルベンチャーズに転職され、その流れで現在CDOを勤めるOnedotに移られたそう。お話を伺っていると、こういった経歴の中で経験されたことがスタートアップにおけるCDOの必要性を意識されたきっかけでもあるのかなと感じます。

例えばこれは私自身も近い経験があるのですが、本来、デザインの事を一番わかっているのはデザイナなので、デザイナが予算やリソースをコントロールすべきなのに関わらず、多くの事業会社ではデザインに関する意思決定権がデザイナにありません。なぜならデザイン部門のマネージャって、デザイナのマネージメントはするのだけれど、プロダクトに関する意思決定などまでは踏み込め無いことが多く、これではいくら良いプロダクトを作ろうと思っても限界があることが多いんですよね。

坪田氏の場合は会社と交渉して意思決定や予算に関する権限をデザイン部門に引っ張ってきたそうですが、そこそこの規模の企業においてデザイナがそこまでやるのって相当に大変なのは想像に難くありませんし、これが組織のスピードにブレーキをかけてしまいます。

CDOがいない組織/いる組織

上記スライドは、よくあるスタートアップ(左)と、坪田氏が理想的だと考えるスタートアップ(右)の組織構成比較です。左はエンジニアのトップ(CTO)とビジネスのトップ(CEO)が取締役として会社をドライブさせて、デザイン組織はCEO(あるいはビジネス部門)の管理下といいうスタイル。それに対して右はCTO、CDO、CEOがそれぞれテクノロジ、デザイン、ビジネスを見ると言うスタイルですね。

一般的にビジネスの人はエンジニアリングについて詳しくないことが多いため技術担当役員を配置することは多々あります。なぜならシステムアーキテクチャについて相談されても知識や経験が無いことには適切な判断を下せません。しかしながらデザイン領域に関しては、デザインを専門に勉強してない場合であっても、雰囲気で意思決定が出来てしまうんですよね。この色は好きだとか嫌いだとか。なんとなくこっちのほうがかっこいいとか。この組織形態の場合、デザイナが最終的な意思決定に関与出来ないし予算に関してもビジネス任せになり、指示待ち状態で仕事を進める事になります。しかしデザイン担当のCxOが居る組織の場合は3つの分野において責任をわけてものづくりを進めることができて効率よく正しいものを作れるとのことでした。

CDOの仕事とは?

では、CDOの仕事には何が含まれるのでしょうか。氏の発表で触れられたものは下記の画像にもあるように大きく3つ。プロダクト、人事、会社作りです。

プロダクトに関してはKPI云々もそうですが社長と対等なパートナーとして、ビジョンが常に擦り合っている状態であることが重要で意思決定が降りてくるような状態ではなく常時シンクロされてないといけません。 また、デザインに関して適切な予算が完全委譲されていることも必要でそのためには予算と人事権が重要となってきます。何かをするためにいちいちお伺いを立てるのであればそれは中間管理職でしかないため、その点を明文化していく必要があるそうです。

なお、ここで言う人事権とは、部下を、社内の人材をどう使うとかの話ではなく、誰を採用するのか、何を外注するのか、スタッフの給与をどう設計し育成していくのかにも責任を負います。会社に関しては組織ブランディングや、勤務体系やツール選定など。会社作りに関しては、そこまでCDOがやるの?とも感じましたが、最近だと組織デザインを行うデザインファームが増えてきているのもあり、それはそれでありなのかも知れません。

インハウスデザイナの重要性

これまでデザイナは絵を描く、グラフィックがひとつのスキルとしてありましたが、今後はドメインに結びついた知識がないとデザインが出来なくなってくるとのことでした。例えば、証券関係や決済などは法律が複雑で、そういった法律をきちんと理解せずに適切なUIを作ることは出来ません。今後、このような領域固有の強みを作っていこことがキャリア的に有利だし、それは外注への依頼が難しくなる事を意味します。

例えば、デザインファームにフィンテック関連のUIデザインを依頼しても、彼らが関連法律やAPIの調査などフィンテックの基礎知識から勉強しはじめると、それだけで大変な時間がかかるし、すぐに結果を出すことは困難です。だからこそインハウスでデザイナを抱えることが組織にとって強みになるとのことでした。

CDOになる際の注意点

ここで坪田氏自信がCDOになったときの話もありました。氏の場合は社長に直接メッセージを投げて条件交渉などを行ったそうで、年収がいくらでストックオプションがいくらで、兼業可能で制作実績を公開可能とするなどの条件面の他、責任範囲と裁量を明確化して自分が何をするか、何をやっていいかなどを明確にしたそうです。

経営者向けのメッセージ

会場にはスタートアップ経営者の方もいらっしゃっていたようですので彼らに対してデザイナー採用のメリットの説明もありました。(そもそもこういった説明が必要な経営者がこういうイベントに来るのか個人的には疑問ですが)

経営目線から見たスタートアップにおけるデザイナの重要性はつまるところ、スクラップ・アンド・ビルドで素早く物を作れるので、プロダクトが早く高品質で作れると言うわかりやすいメリットや、 ジャンル特価型デザイナを初期から育てる いきなり入った人にフィージビリティを考えたうえでUI設計するのはハードルが高く数ヶ月かかるなどの点でした。とはいえ、デザイナーをいきなりフルコミットで雇える会社も多くないでしょうから、フリーランスでも良いので一人捕まえて会社のブランドデザインなど環境整備などを行っていく方が中長期的に見てリターンが大きいというのが氏からの提言でした。

デザイナ向けのメッセージ

デザイナに向けての提言としては、CEO/CTOと阿吽の呼吸で作れる環境は楽しいけど、そのためには適切な裁量が必要だよということ。そしてそのためには強いジャンルを作り自分の市場価値をあげつつ。お金、法律、フィージビリティと向き合い続けることが重要だとのことでした。

磨り合わせポイント

最後にこれはデザイナと経営者双方向けだと思うのですが、スタートアップへのジョインにあたり双方が認識を合わせておくべき項目について言及がありました。まずはCDOの定義について。CDOというよりデザイナと言う単語から生まれるギャップなのかも知れないですが、なんでもやる便利屋さんではないよと言うこと。何をやる、何をやらない、何が得意、何が苦手などを話した方が良いということ。

さらに、スタートアップのイメージとして給与が安いと言うのは往々にしてありますが、資金調達しているところに関しては決してそういうことはありませんので交渉すべきだと。その他の項目としては予算などの裁量がどこまであるかと、社長との相性の重要性について。前述模した通り、フリーランスなどの形で週に数回と言うレベルで構わないので中に入って社長との相性を見るのは重要だと思われます。

そして最後にSO条件について。これに関してはノリで決めないこと。実際問題あまり世の中に情報として出回っていないのですが、ここを甘く設定してしまうと2年ほど死ぬほど働いても悲しい事になったりするので気をつけるべき、とのことでした。

おわりに

以上、早足で坪田氏のプレゼンテーションの概要について説明しましたが、結局のところデザインの定義が広がってきたために、適切な知識や経験が無いとビジネスにとって適切な判断を下すことが困難になりつつある背景があります。

これまで一般的にデザインと言った場合、グラフィック(コミュニケーション)だとかプロダクトをデザインの対象として扱うことを指していました。インタラクションデザインやサービスデザインと言う概念が登場したのは90年代あたり、一般に普及し始めたのは00年代でしょうか。インタラクションデザインと言った場合、デザインの対象はユーザの行動ですし、サービスデザインと言った場合、デザイン対象はユーザの行動をビジネスとして成立させる事が含まれてきます。

これには多くの専門知識やスキルが求められ、いわゆるビジネスの人の手に追えるものでは無くなってきつつあります。そして同時に、デザイナにとってはその部分に関する裁量をビジネスチームが握っている事に対し、我々ならもっと上手くやれるのにと言う欲求の高まりがあったのでしょう。

なお、話の中でデザイナも業界固有の知識、経験を得てそれを強みとする必要性が語られていましたが、これら業界知識の必要性はいわゆるコンサル諸氏にとってはおそらく常識中の常識で、彼らは業界ごとに自分の専門性を深めて行っています。流通とか製造とか、金融とか。これに関してはむしろこれまでデザイナが表面的な部分でしか携わっていなかったからこそ許されていた点でもあり、デザイナの活躍領域が広がるにつれて当然そのあたりのスキルセットが要求されてくるよという話なのかなと思います。

スタートアップにおいてCDOが必要とされる/普及しつつある背景にはこういった事情もあり、経営側とデザイナ側の利害が一致しているわけですから、この流れは今度ますます加速していくはずです。